北村健先生の「臨床医のための生成AI活用講座」(前編)

AIが日常生活に浸透し始め、医療の世界でもその影響が現れつつあります。ChatGPTの登場からわずか数年で、医師の役割にも大きな変化が求められる時代となりました。これからの医療従事者には、AIを活用するための新しいスキルセットが必要不可欠です。本記事では、AIリテラシーやクリティカルシンキングなど、AI時代に医師が身につけるべき重要なスキルについて、『AIドクターと手を取り合う医師たち AIと共生する医療の新時代』(ホリエモン出版)の著者である、北村 健先生に教えていただきました。


北村健先生
不整脈専門医/循環器専門医/総合内科専門医
フランスボルドー大学 不整脈講座での留学を経て臨床医として活躍中。
AIに関する著書として『AIドクターと手を取り合う医師たち AIと共生する医療の新時代』(ホリエモン出版)、『AIドクター革命: AIが医師国家試験を攻略する時代』がある。


医師と生成AI

GPT-3.5モデルのChatGPTの発表から2年が経過し、生成AIの普及により我々の日常生活にAIが徐々に浸透しつつあることが認識され始めています。

インターネット検索や自動運転など様々な分野で我々が気付かないうちにAIが用いられています。

私の著書でも述べていますが、AIは人間の大脳の機能拡張として我々をサポートしています。医療の世界にもAIを用いたテクノロジーが徐々に参入し始めた今、医師に求められるスキルセットも大きく変化しつつあります。

AIと共存し、そのパワーを最大限に活用しながら、日常業務や研究を行っていくには、私たち医師はどのようなスキルを磨く必要があるのでしょうか。

AIを用いた医療機器の開発に携わる医師は増えていますが、生成AIのユーザーとしての医師からの発信は比較的少ないのが現状です。そこで、AI時代に求められる医師のスキルについて、生成AIを臨床医/研究者として使用している私の経験と考えを述べていきます。

本稿は前編と後編に分かれており、前編ではAI時代に医師に求められるスキル、後編では具体的にどのような場面で生成AIが使えるのかについて解説します。

AI時代に求められる医師のスキルとは?

前提として、現状の生成AIはGoogleやPubMedといった検索エンジンではないということを認識しておく必要があります。

生成AIを利用したことのある読者の方であれば既に気づいていることと思いますが、例えば歴代のプロ野球の優勝チームを正確に記述するといったことは”現状の”AIでは正確性に乏しいことがあります。

AI時代に求められる医師のスキルは、以下の5つです。


・AI リテラシー
・クリティカルシンキング
・コミュニケーションスキル
・継続的学習
・創造性とイノベーション力

1. AI リテラシー

まず最も重要なのは、AIリテラシーです。

これは単にAIの使い方を知っているということではありません。

AIの基本的な仕組み、強み、そして限界を理解し、医療現場や日常で適切に活用する能力のことを指します。検索エンジンとの違いを理解することもここに含まれます。

具体的には以下のようなスキルが含まれます:

・AIの基本的な概念(機械学習、ディープラーニングなど)の理解
・医療AIの主要な応用分野(画像診断、自然言語処理、予測モデルなど)の把握
・生成AIにおけるプロンプト入力スキルAIの出力を批判的に評価する能力

AIリテラシーを高めることで、AIを「ブラックボックス」として恐れる、「あー、使えないなー」としてしまうのではなく、強力な同僚/秘書として活用することができるようになります。

プロンプト入力には一定の抑えるべきルールがありますし(後編参照)、特に生成AIの出力に対する批判的な評価には生成物に対する知識、深い洞察が現状のAIの出力の評価には不可欠です。

つまり、現状ではAIを使う分野においてAIの生成物に一定の評価を下せる人材が適切にAIを使っていくことができるでしょう。

2. クリティカルシンキング

繰り返しになりますが生成AIが提供する情報や分析結果を鵜呑みにせず、批判的に評価する能力は、これまで以上に重要になります。クリティカルシンキングのスキルには以下が含まれます:

・情報の信頼性と妥当性の評価
・バイアスの認識と排除
・論理的思考と分析能力
・複数の視点からの問題解決能力

AIの出力に誤りやバイアスが含まれる可能性があります。

クリティカルシンキングのスキルを磨くことで、AIの限界を理解し、その出力を適切に評価することができます。

AIを使用する領域での基本的知識やAIがハルシネーション(誤った情報の生成)を起こす可能性について理解し、生成物について妥当性を評価できる専門的な知識が必要です。

3. コミュニケーションスキル

AIが多くの業務を効率化する一方で、人間にしかできない「人間らしい」コミュニケーションや経験/体験の重要性は増していくでしょう。

例えば文章などの生成物を作成する場合、簡素なものであれば、今後自身でタイピングすることすらなくなるでしょう。

そのようにして生まれた時間で我々はAIに代替できない文章の素材となる経験や体験を積むことで文章の価値を高めることができるでしょう。

以下のようなスキルが求められます:

・患者との共感的なコミュニケーション
・複雑な医療情報のわかりやすい説明能力
・AIの診断や提案を患者に適切に伝える能力
・豊かに生活を送る能力

AIが提供する情報を、患者の状況や理解度に合わせて適切に説明し、信頼関係を築くことがますます重要になります。

一方で、知識のみの羅列による説明や患者さん個人に合わせて共感や説明ができないと自身の価値は高められないかもしれません。

また、AIの使用によって生まれた時間を豊かに過ごす人間力という抽象的ではありますが重要な能力がこれからますます価値を増すでしょう。

4. 継続的学習

AI技術は日進月歩で進化しています。特に近年の生成AIの進歩は皆さんもご存知の通りです。

日々様々な生成AIの進歩があり、SNSやオンライン上では凄まじいスピードで情報が刷新されています。

私も各生成AIの情報収集と実際の運用を日々行っていますが、追い付けないほどです。

そのため、医師には以下のような継続的学習能力が求められます:

・最新のAI技術とその医療応用に関する情報収集能力
・新しいAIツールやシステムの迅速な習得能力
・自己学習と成長のためのモチベーション維持
・失敗から学び、常に改善する姿勢

継続的な学習を通じて、常に最新かつ最適な医療を提供し続けることができます。また、失敗から学び成長する姿勢は自身のキャリアを豊かにしてくれると信じています。

5. 創造性とイノベーション力

AIが定型的な業務を担当するようになれば、人間にしかできない創造的な仕事や活動の重要性が増します。

以下のようなスキルが求められるでしょう:

・既存の概念にとらわれない柔軟な思考力/適応能力
・新しい治療法や診断方法の開発能力
・AIと人間の強みを組み合わせた新しいワークフローの設計
・医療の未来を構想し、実現する能力

創造性とイノベーション力を磨くことで、AIと共存しながら医療の質を飛躍的に向上させることができます。

AIはあくまでこれまでの知識などを集積した結果をもとに出力を行います。ゼロからイチを紡ぎ出す仕事は依然として人間の仕事に変わりありません。

これらのスキルを磨くことで、AI時代の医師として、人として生産性と医療の質を向上させ、豊かな生活を送ることができるはずです。

まとめ

AI時代に求められる医師のスキルは、テクノロジーへの理解と人間本来の能力の両方を高めることが重要です。

AIリテラシーといった新しい能力を獲得すると同時に、クリティカルシンキングや共感的なコミュニケーション能力といった人間ならではの能力も磨く必要があります。

さらに、継続的学習能力、創造性とイノベーション力も、これからの医師には欠かせません。

これらのスキルを総合的に身につけることで、AIと共存しながら、より質の高い医療を提供することができるでしょうし、医師の生活も良い方向へ変わっていくはずです。

私たち医師一人一人が、この変化を恐れるのではなく、むしろチャンスとして捉え、積極的に新しいスキルを習得し、適応していくことが重要です。

そうすることで、AIという強力な味方を得た私たちは、AI時代を充実させて楽しんでいくことができるでしょう。

→後編はこちら

北村健 
医師 医学博士
不整脈専門医/循環器専門医/総合内科専門医
フランスボルドー大学 不整脈講座での留学を経て臨床医として活躍中。

AIに関する著書として「AIドクターと手を取り合う医師たち AIと共生する医療の新時代」(ホリエモン出版)、「AIドクター革命: AIが医師国家試験を攻略する時代」がある。
不整脈/循環器領域で100編以上の英語論文あり
(https://scholar.google.com/citations?hl=ja&user=bpQ5ipkAAAAJ)

書籍
Percutaneous Epicardial Interventions: A Guide for Cardiac Electrophysiologists, May 2020. ISBN: 9781942909316 Chapter 6 Different Fluoroscopic Approaches for Epicardial Access
Yosuke Nakatani, Takeshi Kitamura, Frederic Sacher, Pierre Jaïs.
「本当は教えたくない カテーテルアブレーションがうまくいくカラクリ」Epicardial VT ablation項 
「これから始めるカテーテルアブレーション−手技がわかる,流れがつかめる」エントレインメントマッピング 項他 

本文章は以下のソースをを参考にして作成しています
文章生成AI 利活用 ガイドライン – 東京都デジタルサービス局
Microsoft Azure AI Fundamentals:生成 AI
『AIドクターと手を取り合う医師たち AIと共生する医療の新時代』 ホリエモン出版

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